第1報「解析力学」の名著を国会図書館/個人送信サービスで読む ❖ 理系書探訪【NDL通信】

現代物理学や動的システム論を基礎づける解析力学の名著、ゴールドスタイン『古典力学(第3版)』、アーノルド『古典力学の数学的方法』は、2021年6月の法律改正によって国立国会図書館の個人送信サービスにより手元端末で読める時代になりました。この文書では、解析力学の概要とネットで読める上記2書のほか、伏見康治『力学』など、解析力学の名著を紹介します。

1 この分野の眺望

ニュートン力学は、1687年に公表されたアイザック・ニュートン(1642-1727)の 運動3法則 のもとで、物体の運動を記述し解析する力学の体系。基礎方程式はニュートンの運動方程式。これは物体の現在の位置と速度が、つぎの瞬間にいかなる値をとるかに着目したもの。これに対して、最小作用の原理 から出発する力学が 解析力学 である。ラグランジュの関数(ラグランジアン)は物体を構成する各質点の一般化座標と一般化速度の関数である。それに対して、ハミルトンの関数(ハミルトニアン)は速度ではなく運動量を取る。解析力学ではこれらの関数が主役級である。この文書では、ゴールドスタイン『新版 古典力学』、吉岡書店(1983)を中心に、インターネットで読める教科書を紹介する。

解析力学の代表的な教科書、ゴールドスタイン『古典力学』や伏見康治『現代物理学を学ぶための古典力学』がある。アーノルド『古典力学の数学的方法』は、古典力学を多様体上で記述した重要な教科書、

1-1 ラグランジュ力学

ニュートン力学が微分積分学を基礎とするのに対し、解析力学はヨハン・ベルヌーイ(1667 - 1748)の最速降下曲線の研究に起源を持つ変分法に基づく。ジョセフ=ルイ・ラグランジュ(1736 - 1813)の関数という意味のラグランジアンを、運動の軌跡上で積分した値を作用積分とよぶ。この作用積分が “極小値をとるよう運動が決まる” という主張が最小作用の原理(1750年代)である。この原理は、物体(質点系)の位置の時間的な推移、“運動の軌跡” が如何に定まるかに着目する。ニュートン力学がデカルト座標で書かれるのに対して、解析力学では都合のよい座標系を選べる。そのため、物体を構成する質点間の作用・反作用を計算しなくて済む。この原理から、オイラー・ラグランジュ方程式という2階の微分方程式が導かれるが、これを基礎方程式とする解析力学の体系が ラグランジュ力学 である。

1-2 ハミルトン力学

ラグランジアンを座標と運動量の関数に変換したものをハミルトニアンとよぶ。ウィリアム・R・ハミルトン(1805 - 1865)の関数という意味である。ハミルトニアンの作用積分に最小作用の原理を適用するとハミルトン方程式とよぶ座標と運動量に関する1階の微分方程式の連立方程式が得られる。これを基礎方程式とする解析力学の体系が ハミルトン力学 である。解析力学には、これ以外にも様々な流儀がある。それらが次から次へと登場して、話しは複雑化し、まわりの学友も次から次へと脱落していくのであるが、この先に登場するハミルトン・ヤコビの偏微分方程式からが面白いのである。この面白さを伝えられるかどうか、これが教科書選びのポイントだろうと思う(探訪堂の個人的見解です)。なお、解析力学の教科書には、単に、力学、あるいは古典力学というタイトルが付けられることがある。この “古典力学” は、量子力学以外の力学、という意味で使われる。

2 国立国会図書館(NDL)デジタルコレクションから

このコーナーでは、国立国会図書館/デジタルコレクションの個人送信サービス(無料)を利用して、手元端末で閲覧可能な書籍を紹介します(PC・タブレット推奨)。記事のバナー【国立国会図書館デジタルコレクション】からログイン画面に入ります。未登録の場合、そこから「個人の登録利用者」の本登録(国内限定)に進むことができます。詳細は当webサイトの記事「国立国会図書館の個人向けデジタル化資料送信サービスについて」をご覧下さい。

2-1 『新版 古典力学』

ゴールドスタイン『新版 古典力学(上下)』、吉岡書店(1983)

ハーバート・ゴールドスタイン(1922 - 2005)の『古典力学』は、解析力学の標準的な教科書で、英語圏では大切に読み継がれている。本書はその第2版

Herbert Goldstein『Classical Mechanics Second Edition』、Addison-Wesley(1980)

の翻訳、京都・吉岡書店の『物理学叢書』11a、11bとして出版された。原著第2版まではゴールドスタイン本人による単著だったが、2000年の第3版からはコロンビア大学での後継者、チャールス・ポールとジョン・サーフコとの共著となっている。上巻は504ページ、下巻は505から910ページを収録している。「第1章 基本原理の概観」では、ニュートン力学、ダランベールの原理、オイラー方程式を丁寧に説明したあと、摩擦力の取り扱いも紹介している(普通の解析力学の教科書では素通りすることが多い)。到達目標はハミルトン・ヤコビ方程式、正準形式の摂動論で、最終章は連続体や場の解析力学の紹介である。

『新版 古典力学(上)』書誌情報と目次

ゴールドスタイン『新版 古典力学(上)』、吉岡書店数学叢書11a(1983)

第2版への序文/第1版への序文/訳者まえがき
第1章 基本原理の概要
第2章 変分原理とLagrangeの方程式
第3章 中心力の2体問題
第4章 剛体の運動学
第5章 剛体の運動方程式
第6章 微小振動
第7章 古典力学における特殊相対性理論
付録 Bertrandの定理の証明/別な規約によるEulerの角/ \( d\Omega\) の変換性
記号索引/索引

インターネットで読める

ゴールドスタイン『新版 古典力学(上)』、吉岡書店(1983)、pp.1-504

『新版 古典力学(下)』書誌情報と目次

ゴールドスタイン『新版 古典力学(下)』、吉岡書店数学叢書11b(1983)

第8章 Hamiltonの運動方程式
第9章 正準変換
第10章 Hamilton-Jacobiの理論
第11章 正準形式の摂動論
第12章 連続的な系および場に対するラグランジアン形式とハミルトニアン形式の序論
付録 Hamilton-Jacobiの方程式の変数分離可能性に対するStaeckelの条件/気体中における音響場のラグランジアン形式
参考文献目録/記号索引/索引

インターネットで読める

ゴールドスタイン『新版 古典力学(下)』、吉岡書店(1984)、pp.505-910

2-2 『古典力学の問題と解説』

瀬藤、吉田『古典力学の問題と解説:ゴールドスタイン(第2版)に基づいて』、吉岡書店(1983)

ゴールドスタインの『古典力学』には、良質な演習問題が添えられていて、学習の確認や展開に役立ちます。吉岡書店の邦訳には原書初版の時代から、訳者を中心とする研究者によって、この演習問題のそれぞれの問題文と解答を合わせて、1冊の本として出版されています。これも、国立国会図書館の個人送信サービスで閲覧できます。

インターネットで読める

瀬藤、吉田『古典力学の問題と解説:ゴールドスタイン(第2版)に基づいて』、吉岡書店(1983)、pp.414

2-3 『古典力学の数学的方法』

V. I. アーノルド『古典力学の数学的方法』、岩波書店(1980)

解析力学の学習を進めていくと、シンプレクティック力学とかシンプレクティック幾何学という分野の本に遭遇することがあります。解析力学では気軽に座標系を選べますから、単振子の運動などは、初めから円筒面(角度変数と角速度変数の直積)で議論したほうが、大域的な挙動を把握しやすいのです。そこで、登場するのが、可微分多様体 \( M\) という概念です。たとえば、ラグランジアンを \( M\) の接バンドル \( TM\) 上の実関数、ハミルトニアンを余接バンドル \(T^\ast M\) 上の実関数とみなして、座標系の取り方に依存しない仕方で力学の議論を展開するのです。上の単振子の例では \( M\) は配位空間の円、\( TM\) が角速度座標を加えた円筒面になります。また、ルジャンドル変換を介して \( T^\ast M\) に移り、そこにシンプレクティック形式という正則交代双線形形式を導入して、シンプレクティック多様体が得られます。これが、ハミルトン力学の舞台となります。

著者のウラジミール・イーゴレヴィチ・アーノルド(1937-2010)は現代数学の巨人で、特にハミルトン力学、シンプレクティック幾何学、特異点論、位相幾何学といった様々な分野で偉大な足跡を残しています。本書『古典力学の数学的方法』は、解析力学から、本格的にシンプレクティック力学に踏み込む際の登竜門とでもいうべき教科書で、世界的名著です。第Ⅰ部の第1章 経験的事実の冒頭は

古典力学の基礎には少なからぬ経験的事実が存在する。そのいくつかを挙げる。
A. 空間と時間 われわれの空間は3次元Euclid空間であり、時間は1次元である。

という記述から始まります。ランダウ『力学』の第1章も衝撃的ですが、アーノルドの『古典力学の数学的方法』も驚きの連続です。一文でも削ったら、それ以降の理解に支障が生じるような緊迫した展開。しかし、次第にこういう書き方が心地よくなり、そして、当たり前になっていくから不思議です。可微分多様体の話しは第4章まで登場しませんし、本文中で簡潔な定義が示されます。数学的な補遺を集めた巻末の「付録」も充実していて、教育的配慮は抜群です。機会があれば、当サイトの『書評記事』で詳しく取り上げたいと思いますが、とりあえず、ご紹介まで。

『古典力学の数学的方法』目次

第I部 Newton 力学
第1章 経験的事実
相対性原理と決定性原理/Galilei群とNewton方程式/力学系の例

第2章 運動方程式
自由度1の系/自由度2の糸/ボテンシャルカの場/角運動量/中心力場における運動/33次元空間における点の運動/n点系の運動/相似性の考え方

第II部 Lagrange カ学
第3章 変分原理
変分法/Lagrange方程式/Legendre変換/Hamilton方程式/Liouvilleの定理

第4章 多様体上のLagrange力学
ホロノーム拘束/微分可能多様体/Lagrange の力学系/E. Noetherの定理/d'Alembertの原理

第5章 振動
線形化/微小振動/固有振動数の挙動/パラメーター共鳴

第6章 剛体
動座標系における運動/慣性力、Coriolisの力/剛体/Euler方程式、Poinsotによる運動の記述/Lagrange のこま/眠っているこまと速いこま

第III部 Hamiltonカ学
第7章 微分形式
外形式/外積/徴分形式/徴分形式の積分/外徴分

第8章 シンプレクティック多様体
多様体上のシンプレクティック構造/Hamilton 相流とその積分不変式/ベクトル場のLie環/Hamilton関数のLie環/シンブレクティック幾何学/多自由度系のバラメーター共鳴/シンプレクティック・アトラス

第9章 正準形式
Poincare-Cartanの積分不変式/Poincare-Cartanの積分不変式の定理からの帰結/Huygensの原理/Hamiltonの正準方程式の積分、Hamilton-Jacobiの方法/母関数

第10章 摂動論入門
積分可能な糸/作用-角変数/平均化/摂動の平均化

付録
Riemann曲率/Lie群上の左不変計量による測地線と理想流体の流体力学/代数多様体上のシンプレクティック構造/接触構造/対称性をもつ力学系/2次のHamilton関数の標準形/不動点と閉軌道の近傍におけるHamilton系の標準形/条件周期運動の摂動論とKolmogorovの定理/Poincareの幾何学的定理、その一般化と応用/パラメーターに依存する、固有振動数の重複度と楕円体/短波における漸近/Lagrange特異点/Korteweg-de Vries 方程式

文献/訳者あとがき/索引

インターネットで読める

V. I. アーノルド『古典力学の数学的方法』、岩波書店(1980)、pp.492

2-4 伏見康治『現代物理学を学ぶための古典力学』

伏見康治『現代物理学を学ぶための古典力学』、岩波書店(1964)、pp.315

著者、伏見康治(1909-2008)は日本の量子統計力学の草分けで、あの東京帝大理学部物理学教室教授、寺沢寛一(1882-1969)の助手として自身のキャリアをスタートしています。当サイト『理系書探訪』でもお馴染みの 渡辺慧 とは、七年制の旧制東京高等学校(三期生)と東京帝大理学部物理学教室での合わせて10年を共に過ごした学友です。互いに相手をボコボコにして喜んでいます。カルチェラタンの世界ですね。活発な研究活動の傍ら、一般向けの科学啓蒙書を数多く出版しており、その集大成である『伏見康治著作集』全8巻は国立国会図書館の個人送信サービスで閲覧できます。なお、2013年からは、伏見康治コレクション全5巻(日本評論社)が発刊されてます。私、探訪堂は、伏見康治・伏見満枝『折り紙の幾何学』などの愛読者ですが、専門書のほうは、伏見康治『量子統計力学』(共立出版)ではなく、久保亮五『統計力学』(共立全書)の世代です。伏見は、久保亮五(1920-1995)が尊敬する大先輩で、名著『ゴム弾性』の起点となった論文への辛辣なコメントに凹んでいた久保を激励したのが伏見だったと、何かの本で読んだことがあります。久保は伏見の影を追っていた、、、。そういえば、伏見の後任として日本学術会議の会長を引き継いだことについて、「日本学術会議改革の嵐の真只中に会長職の跡を襲って火中の栗を拾う羽目になってしまった」という感慨を述べています。明治の息吹を感じる話しですね。さて、本書『現代物理学を学ぶための古典力学』です。この分野の標準的な教科書でありながら、類書には見られない構成と内容で、一見してわかる伏見節を堪能できます。第4章以降が解析力学ですが、第1章、第2章、第3章も十分に楽しめます。

伏見康治『現代物理学を学ぶための古典力学』目次

まえがき
第1章 運動学と運動方程式
運動方程式に含まれる3概念/運動学とベクトル/ベクトル算への補足/ベクトルの線型関数——ジアジクス/テンソル算との関係/質量/力/2体問題/衝突の解析/特殊相対論

第2章 質点力学の初等的例題
等方振動子/異方振動子/強制振動/ロレンツの力/マグネトロン/惑星運動/軌道と運動/中心力一般/ \(B_z(x)\),\(E_x(x)\) だけの電磁場の中の荷電粒子/磁気単極子/軸対称の磁場一般/軸対称の電磁場/時間的に変わる軸対称の磁場——ベータトロン

第3章 質点系の力学
質点系/剛体/力の働かないこま/分子の回転と振動

第4章 変分原理
幾何学的変分問題——直線と測地線/運動学的変分問題——自由質点と束縛質点/力学的変分問題——ハミルトンの原理/対称性をもつ力学系/最小作用の原理/荷電粒子の運動/非線型振動の例としての振り子

第5章 正準理論
ハミルトンの主関数——積分不変式/位相空間内の変分原理——正準運動方程式/不変式の意味/電子幾何光学における不変式/ポアッソンの括弧式とビリアルの定理/正準変換/変換を許すハミルトン関数/ハミルトン‐ヤコービの偏微分方程式/定常運動のまわりの振動

第6章 加速器その他
ベータトロン/シンクロトロン,位相安定の原理/強集束の原理/強い磁場の中の荷電粒子——平均法によるとり扱い/強い磁場の中の荷電粒子——ハミルトン形式

注と文献/索引

インターネットで読める

伏見康治『現代物理学を学ぶための古典力学』、岩波書店(1964)

2-5 伏見康治『力学』

伏見康治『岩波講座 現代物理学 第二版 力学』、岩波書店(1958)、pp.221

本書、岩波講座現代物理学[第二版]の『力学』は、上で紹介した『現代物理学を学ぶための古典力学』の雛形となったような著作で、第1章から第5章までは、ほぼ同じ構成です。ただし、記述は『古典力学』に比べて簡素です。続く第6章、第7章は『古典力学』では展開されなかった内容で、とくに「第7章 古典力学の公理論的整理」は一読の価値があります。議論は、

  • ニュートンの運動方程式に質量と力が同時に現れるのはやっかいである

という一文から始まります。とりわけ、“力” というものが分かりにくい。そこで、まず、質点系から出発して、作用反作用の原理によって、運動方程式から力を消去してしまい、その地点から力学を “公理論的に” 再構築しようと試みます。そうなると、運動方程式ではなく運動量保存則、ということになりますが、逆に、運動量保存則を主原理にして、作用反作用の原理がそのひとつの帰結であると考えたらどうなるかと推論を続けます。およそ、教科書的でなく、印象的かつ刺激的な議論が披露されますが、エネルギー保存則を如何に取り込むべきか、というさらなる謎が提示された時点で話しが突然終わります。読者を未来へと誘う、、、伏見節炸裂です。家族の寝静まった夜のお供に如何ですか、、、。ところで、この話し、『基礎科学』という短命に終わった伝説の理系雑誌に掲載された内容である旨、括弧書きで添えられています。私、探訪堂はこの雑誌の来歴とその所在を尋ね歩いたのですが、今のところ、国会図書館に出向かないと閲覧は無理なようです。何か分かればまた、ご報告致します。

伏見康治『岩波講座 現代物理学 第二版 力学』目次

第1章 運動学と運動方程式
第2章 一質点の力学
第3章 質点系の力学
第4章 変分原理
第5章 正準理論
第6章 連続物体の力学
第7章 古典力学の公理論的整理
参考書

インターネットで読める

伏見康治『岩波講座 現代物理学 第二版 I.A. 力学』、岩波書店(1958)

2-6 広重徹『物理学史』

広重徹『物理学史 I』、培風館新物理学シリーズ(1968)、pp.244
広重徹『物理学史 II』、培風館新物理学シリーズ(1968)、pp.238

培風館の新物理学シリーズ(全22巻、別巻2冊)は「大学中級およびそれ以上の学生・研究者のために、現代物理学の成果と方向を十分に反映して編集された」シリーズ。私、探訪堂も、数冊を手元において、お世話になりっぱなしのシリーズです。監修は山内恭彦(1902-1986)、寺沢寛一の直系ですね。各巻のカバーのそで書きには

今日の巨大な技術革新には物理学の発展が基本的な役割を果たしており、化学・生物学等の諸科学の “物理化” もまた著しい。このシリーズは現代物理学のこのような側面も十分にカバーして、隣接領域の研究者にとっても信頼できる伴侶となることを期している。

という言葉を刻んでいます。別巻を含めて24巻ありますが、現在も改訂が続けられている巻などを除いて、なんと、16巻が国立国会図書館(NDL)の個人送信サービスで閲覧できます。日本物理学会の総力を結集した別巻と別巻2は圧巻です。

全巻の構成をみておきましょう。「NDL」は公開されている巻への国立国会図書館のデジタルコレクションへのリンクです。PCあるいはタブレットでの利用がおすすめです。PCでは左右矢印でページのアップダウンができます。詳細は、当webサイトの記事「国立国会図書館の個人向けデジタル化資料送信サービスについて」をご覧下さい。

培風館・新物理学シリーズの構成

1.押田勇雄『物理学の構成』(1968)NDL
2.平川浩正『電磁気学』
3.戶田盛和『振動論』(1968)NDL
4.山内恭彦『量子力学』
5.広重徹『物理学史 I』(1968)NDL
6.広重徹『物理学史 II』(1968)NDL
7.金森順次郎『磁性』
8.阿部龍蔵『電気伝導』(1969)NDL
9. 中嶋真雄『超伝導入門』(1971)NDL
10.高柳和夫『電子・原子・分子の衝突』(1972)NDL
11.宅間宏『量子エレクトロニクス入門』(1972)NDL
12.平川浩正『電気力学』(1973)NDL
13.西島和彦『相对論的量子力学』
14.山本祐靖『高エネルギー物理学』(1973)NDL
15.山田勝美、森田正人、藤井昭彦『ベータ崩壊と弱い相互作用』(1974)NDL
16.高橋康『物性研究者のための場の量子論 I』
17.高橋康『物性研究者のための場の量子論 II』
18.高野文彦『多体問題』(1975)NDL
19.中西裏『場の量子論』(1975)NDL
20.伊達宗行『電子スピン共鳴』(1978)NDL
21.巽友正『流体力学』
22.平川浩正『力学』

別卷 日本物理学会編『現代物理用語』(1973)NDL
別巻2.日本物理学会編『続・現代物理用語』(1981)NDL

さて、広重の『物理学史』です。広重徹(1928-1975)は日本の物理学史、自然科学の社会史の研究者です。本書出版から7年ほどたった1975年1月、癌のために早逝しました。それぞれの目次構成を示しておきましょう。本稿『NDL理系書通信 第1報「解析力学」』に関係した内容は、『物理学史 I』の「5. 古典力学の完成」にあります。「5-6. 力学的決定論」は短いながら、読みごたえがある1編です。

広重徹『物理学史 I』目次

1. 近代科学の成立
2. 大気圧と光
2-1 真空/2-2 大気圧/2-3 実験と科学的推論/2-4 空気の弾性/2-5 屈折光学/2-6 色と分散/2-7 光の本性/2-8 光の伝播
3. Newton力学の形成
3-1 Impetus理論/3-2 Keplerの法則/3-3 落下運動/3-4 慣性の原理/3-5 衝突と振り子/3-6 Newtonの総合/3-7 『プリンキピア』/3-8 重力の成因
4. 理性の時代
5. 古典力学の完成
5-1 Newton力学の定着/5-2 基本概念と基礎方程式/5-3 最小作用の原理/5-4 解析力学/5-5 流体力学/5-6 力学的決定論
6. 前線の拡大
7. 光学の新展開
7-1 干渉/7-2 回折/7-3 偏りと複屈折/7-4 弾性波動論/7-5 波動論の決定実験/7-6 光学系の研究/7-7 特性関数の理論と正準方程式/7-8 スペクトルの研究
8. 熱学の発展
8-1 熱の物質説/8-2 気体の熱的性質/8-3 Carnotの理論/8-4 熱の運動論/8-5 エネルギー恒存則/8-6 熱力学の基礎/8-7 熱力学の展開
9. 気体運動論から統計力学へ
9-1 先駆者たち/9-2 平均自由行路と速度分布/9-3 H定理から確率的把握へ/9-4 アンサンブルの理論/9-5 Brown運動

インターネットで読める

広重徹『物理学史 I』、培風館新物理学シリーズ(1968)

広重徹『物理学史 II』目次

10. 電気とエーテル
10-1 定常電流/10-2 電気分解とイオン/10-3 電流と磁気/10-4 電気力学/10-5 近接作用論/10-6 Maxwell/10-7 電波の発見/10-8 電磁場とエーテル/10-9 光と物質
11. 現代物理学への転換
12. 相対性理論
12-1 地球運動の光学現象への影響/12-2 電子論/12-3 運動物体の電気力学/12-4 Einsteinの相対性理論/12-5 相対性理論の受容/12-6 一般相対性理論
13. X線と電子
13-1 真空放電/13-2 X線と気体の電離/13-3 陰極線とZeeman効果/13-4 電子の存在確立/13-5 磁性と電気伝導/13-6 X線と結晶構造
14. 放射能と原子構造
14-1 放射能の発見/14-2 放射性変換説/14-3 変位則と同位元素/14-4 α線の本性/14-5 原子構造論の試み/14-6 原子核/14-7 原子内電子の数
15. 量子論
15-1 熱輻射の研究/15-2 輻射公式/15-3 光量子と比熱/15-4 スペクトル公式/15-5 原子構造の量子論/15-6 前期量子論/15-7 波と粒子の二重性/15-8 対応原理からマトリックス力学へ/15-9 物質波と波動力学
16. 変貌する物理学

参考文献/事項索引/人名索引

インターネットで読める

広重徹『物理学史 II』、培風館新物理学シリーズ(1968)

3 書斎の本棚/図書館の書棚から

このコーナーでは、本文に登場した本、関連書籍をさらに紹介します。

3-1 ゴールドスタイン『古典力学(上、下) 原著第3版』

ゴールドスタイン『古典力学(上) 原著第3版』、吉岡書店(2006)、pp.1-466
ゴールドスタイン『古典力学(上) 原著第3版』、吉岡書店(2009)、pp.467-852
瀬藤憲昭『古典力学 問題の解き方: 原著第3版に基づいて』、吉岡書店(2009)、pp.447
Herbert Goldstein, Charles Poole, John Safko『Classical Mechanics Third Edition』、Addison Wesley(2002)、pp.638

2002年、世界中で読み継がれてきたゴールドスタイン『古典力学』の第3版が出版されたということで、私、探訪堂は邦訳版が出る前に、いち早く英語版を入手しました。この新版、サウスカロライナ大学の二人の研究者、チャールズ・P・プール・ジュニア(1927-2015)とジョン・L・サフコによって改訂作業が進められたようです。プールは1953年、サフコは1960年の大学院時代に本書『古典力学』の初版に接し、長年にわたって、教科書『古典力学 第2版』を教室で使い込んできたということです。第2著者、プールは『超電導』などの多くの著書をもち、電子スピン共鳴、核磁気共鳴などの研究に従事、残念ながら2015年に他界しました。第3著者、サフコは一般相対論、特に、三体問題や重力問題、統一場理論関連の研究者です。

この第3版、旧版と比べて、時代の変化に合わせた細かい修正がなされています。大幅に増補されていて、第3章では三体問題に関する節、第7章ではベクトルと1形式に関する節と一般相対論に関する節が追加されています。今回の増補で最も重要な項目は「第11章 古典的カオス」の章の新規追加。コルモゴロフ-アーノルド-モーサー(KAM)理論、エノン-ハイレス系、強制振り子、ロジスティック写像、フラクタルなどが議論されます。ただし、第2版と同程度のページ数に抑えるため、使用頻度が少なくなった記法や参考文献、記号リスト、付録などが削減されています。なお、従来の方針を継承し、必要な数学のレベルが飛躍しないよう配慮されています。付録Bに群と代数に関する配慮の行き届いた解説が追加されました。

この第3版の邦訳は、同じ吉岡書店から出版されています。表紙のデザインは、旧スタイルと新スタイルの2種類ほどあるようです。最近、新刊書店で拝見したのは、旧版のデザインで「原著第3版」が付け加えられたものでした。

Classical Mechanics Third Edition(Addison Wesley)[Herbert Goldstein, Charles Poole, John Safko]
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3-2 ランダウ、リフシッツ『力学』

ランダウ、リフシッツ『力学(増訂第3版)』、ランダウ=リフシッツ理論物理学教程、東京図書(1974)

ゴールドスタイン『古典力学』と並び立つ教科書といえば、何といっても、ランダウ=リフシッツ『力学』でしょう。レフ・ダヴィドヴィッチ・ランダウ(1908-1968)は現代物理学の巨匠で、量子流体力学の分野におけるノーベル賞受賞者。同僚エフゲニー・ミハイロヴィッチ・リフシッツ(1915-1985)と共著の理論物理学教程は世界的に読み継がれています。この本、力学と称しながら、第1章で、いきなり、オイラー・ラグランジュ方程式の導出から始まるという解析力学の古典、名著です。第2章では、時間の一様性からはエネルギー保存則が、空間の一様性からは運動量保存則が、空間の等方性からは角運動量保存則が、ごく短い議論によって導出されます。また、代表的な方程式、たとえば、ハミルトンの正準方程式やハミルトンヤコビ方程式など、驚くほど簡潔な流儀で導かれます。私、探訪堂は、他書を読んで混乱したら、まず、この本に戻って、“体勢” を立て直してから “戦闘” に復帰します。分量的にはゴールドスタイン『古典力学』の三分の一程度ながら、圧縮された記述で読みごたえ抜群です。ときどき、品切れ再版予定無しになったりしますが、その度に華麗な復活を遂げています。

ランダウ、リフシッツ『力学(増訂第3版)』目次

初版まえがきから/第3版まえがき

第1章 運動方程式
一般座標/最小作用の原理/ガリレイの相対性原理/自由な質点のラグランジアン/質点系のラグランジアン

第2章 保存法則
エネルギー/運動量/慣性中心/角運動量/力学的相似

第3章 運動方程式の積分
1次元運動/振動の周期によるポテンシャル・エネルギーの決定/換算質量/中心力の場における運動/ケプラー問題

第4章 粒子の衝突
粒子の崩壊/粒子の弾性衝突/粒子の散乱/ラザフォードの公式/微小角度での散乱

第5章 微小振動
1次元の自由振動/強制振動/多くの自由度をもつ系の振動/分子の振動/減衰振動/摩擦があるときの強制振動/パラメータ共鳴/非調和振動/非線形振動における共鳴/急激に振動する場における運動

第6章 剛体の運動
角速度/慣性テンソル/剛体の角運動量/剛体の運動方程式/オイラーの角/オイラーの運動方程式/非対称こま/剛体の接触/非慣性基準系における運動

第7章 正準方程式
ハミルトン方程式/ラウス関数/ポアッソンの括弧式/座標の関数としての作用/モーペルテュイの原理/正準変換/リウヴィルの定理/ハミルトン=ヤコービの方程式/変数分離/断熱不変量/正準変数/断熱不変量の一定さの精度/条件付き周期運動

索引/訳者あとがき

3-3 山本義隆、中村孔一『解析力学 Ⅰ、Ⅱ』

山本義隆、中村孔一『解析力学 Ⅰ、Ⅱ』、朝倉書店(1998)

山本義隆(1941-)には、近代物理学史・科学史の分野で専門家向けの多くの著書があり、一般解説書にはない貴重な情報が満載です。本書、山本・中村『解析力学』が出版される前には、この系統の本で

がありました。戦前の力学の教科書では「角柱の踊り」という問題があって、底面が正方形である角柱の鉛筆立てなどが、回転しながら、床との接触点を換えつつ減衰振動する様子を解析する、という問題ですが、その非減衰2次元版が掲載されています。ところで、本書『解析力学』は、多様体上で展開される解析力学への入門書という扱いのようです。多様体上のベクトル場やテンソル場、接バンドルや余接バンドルが丁寧に説明され、その準備のもとで解析力学の重要な結果が議論されていきます。そして、近可積分系におけるアーノルドの定理やディラック流の拘束系の正準力学にまで到達します。

山本義隆、中村孔一『解析力学 Ⅰ』目次

1 序章——数学的準備
運動方程式/曲面上の拘束運動/曲面上のテンソルと共変微分/多様体とベクトル場/双対空間と共変テンソル/余接バンドルと微分形式

2 ラグランジュ形式の力学
ラグランジュ方程式/対称性と保存則/ラグランジュ方程式の幾何学的表現/擬座標とポアンカレ方程式/拘束条件と拘束力

3 変分原理
ハミルトンの原理/ワイスの原理とネーターの定理/保存系と最小作用の原理

4 ハミルトン形式の力学
相空間と正準方程式/ハミルトンニアン・ベクトル場/力学系の考察/正準力学系

5 正準変換
相空間上のハミルトンの原理/積分不変式とカルタンの原理/正準変換——母関数による定義/シンプレクティック写像/正準不変式

索 引

山本義隆、中村孔一『解析力学 Ⅱ』目次

6 ポアソン括弧
1径数正準変換/ポアソン括弧と正準方程式/ポアソンの定理/ポアソン括弧とリー代数/相空間の簡約

7 ハミルトン-マコビの理論
ハミルトン-ヤコビ方程式/ヤコビの定理/力学・光学アナロジー/正準変換にもとづく考察

8 可積分系
完全可積分系/周期運動と作用変数・角変数/多重周期系の運動

9 摂動論
定数変化法/ラグランジュの摂動方程式/正準摂動法――フォン・ツァイペルの方法/永年摂動と解の不安定性/リー変換による摂動法

10 拘束系の正準力学
ディラックの処方/ディラック括弧と相空間の簡約/第1種の拘束量とゲージ変換

11 相対論的力学
ガリレイの相対性原理/ローレンツ変換/相対論的運動方程式/相対論的解析力学

索 引

3-4 大貫義郎『解析力学』

大貫義郎『解析力学』、岩波オンデマンドブックス(2019)、pp.240

岩波書店、物理テキストシリーズの第2巻として 1987 年に発行された解析力学の教科書のオンデマンド版。著者、大貫義郎(1928-)は、クォークモデルと覇権を競ったハドロン(強粒子)の “坂田モデル” で知られる素粒子物理学者、坂田昌一の直系で、群論を駆使した坂田モデルの具体的表現を導き出した研究者のひとり。噂によれば、ノーベル物理学賞候補だったとか。本文は理路整然として分かりやすく、章末の演習問題が充実していて計算力が身に付く。個人的には、第11章「束縛条件をもつハミルトン形式」が大のお気に入りで、思わずニタリとする記述が満載です。美味しい所を熟知している、という感じ。「ほら、あなたも食べてみなさい」です。微分方程式を拘束条件(束縛条件)とする拘束力学は、一般には、非ホロノーム(ノンホロノミック)力学に分類されて、ハミルトンの最小作用の原理(変分原理)が使えない。そこで、通常は、より本質的なダランベールの原理に立ち戻るべきところを、ラグランジアンの特異性に目をつけたディラックの方法は、そんな議論を軽々と飛び越える。そして、ポアソン括弧をディラック括弧に置き換えればよい、という恐るべき結果に至る。その過程が、実に丁寧に説明されていて、おまけに、ゲージ自由度の話しにまで進んでしまう。B6判(128x182mm)で228ページ(オンデマンド版は同じ判型ながら240ページらしい)。コンパクトながら中身の濃い名著です。

大貫義郎『解析力学』目次

まえがき

1 座標系
はじめに/座標系の変換/演習問題

2 運動方程式
一般化座標と束縛条件/滑らかな束縛/オイラー・ラグランジュの方程式/演習問題

3 剛体の運動学
オイラーの角/オイラーの速度公式/運動のエネルギー/演習問題

4 ラグランジュの未定乗数法
一般的な考察/ホロノームおよび非ホロノーム系への応用/演習問題

5 ラグランジアンと運動の定数
循環座標/ネーターの定理/例題/演習問題

6 微小振動
安定平衡/固有振動/演習問題

7 変分原理
ラグランジアンの任意性/ハミルトンの原理/力学変数としての時間と最小作用/演習問題

8 ハミルトン形式
ハミルトンの方程式/相空間/ポアソン括弧/演習問題

9 正準変換
ハミルトン形式での変分原理/正準不変量/母関数/演習問題

10 ハミルトン・ヤコビの理論
ハミルトン・ヤコビの方程式/完全解/変数分離法/演習問題

11 束縛条件をもつハミルトン形式
整合性の条件/ディラック括弧/ゲージの自由度/演習問題

付録 グリーンの定理の一般化
演習問題略解/参考書・文献/索引

解析力学(岩波オンデマンドブックス)[大貫義郎]
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